ころっけへの誘惑

努力が、等価もしくはそれ以上に報われるということは、まれだと思う。

「がっかり」とまではいかなくても、「へにゃっ」くらいの。ちょこっと下を向いて、顔をあげるのに、「ふんっ」て鼻息の助けがいるような、へこみ。

たとえば1週間のうち、1回もないなんてこと、ある?

どうせ転ぶんだから先に転んでおこう、とは思わない。転ぶ前に念のための杖、は探さない。けれど。転ぶくらいなら歩きださない、っていうのも選択肢にひとつ。

と。何の話だ、、?

ころっけだ。

ジャガイモをふかして、つぶしてまとめて、衣をつけて、揚げる。

作った人ならわかるはず、作らない人にも察してほしい。

かなり面倒くさい。でも、おいしい。という以上に、好き。

あなたの一番好きな食べ物は?と聞かれることがあったら、「ころっけ、です」と答える準備はできている。

が、しかし。

そう。作る手間に比べて、コロッケというのは家庭料理としての地位が低い。料理が自分のためだけのものでなくなると。同じ揚げ物なら、作るのはとんかつ、アジフライとなる。

そして、いつしか。コロッケは自分で作るものではなくなった。つまるところ、転ぶ前に歩くのをやめたのだ。

コロッケはアウトソーシングで。作る手間を知っていると、家庭料理の中でこれほどぴったりはまるものはない。

ただ、やっぱり。

自宅で作るわたしのころっけと、買ってくるコロッケは、違う。

きっぱり、ちがう。・・・はず。

もう何年も作っていない、つまり、何年も食べてないころっけ。

憧憬というスパイスが加味されて。おじいちゃんが語る、子どもの頃の井戸水でひやした夏のトマト、のような幻の逸品になっているかも。

確かめてみるのは、、簡単、、だけど。。。

八百屋さんで。じゃがいもがの目立つところに置かれる季節になると、ふわっと誘惑される。自宅に帰る道すがら、重たくなったかばんをさげて。

歩きだしたい、気持ちには、なる。