セブンイレブンのカフェオレ

母はコーヒーが好きだった。インスタントではなく、ドリップされたコーヒーをブラックで。喫茶店でコーヒーを飲むのが自分のためのぜいたくだった。月に1度もないその機会に、いろんなお店で、その時々のお気に入りを探していた。

晩年、胃を壊してコーヒーを飲めなくなると、カフェオレを飲むようになった。そのころには、コンビニのコーヒーがかなり良くなっていて。お店へ行くための準備がしんどくなっていたから、コンビニまで車で連れていき、カフェオレを手に入れて。後部座席で待つ母に渡す。すぐに蓋をあけて、香りを楽しみながらカフェオレを楽しむ母を30分ほどドライブして家に連れて帰るのが、休みの日の決まりごとになった。

そのうちに、後部座席に座るのも億劫がるようになり。週に2・3回、カフェオレを買って帰るようになった。自分の席で、ベッドで、それを両手に包むようにもって、ゆっくりゆっくりとカフェオレを飲むのをながめながら、とりとめもない話を聞いてもらうのは、わたしにとって大切な時間だった、と思う。

お昼休みが半分すぎる頃にいつもコーヒーを買いにコンビニに行く若い子がいる。どこのコンビニに行ってきたの、、なんて、その日は帰ってきた彼女と鉢合わせたから、本当に社交辞令的に声をかけた。彼女は、セブンです。。ときっぱり。他のコンビニでは、ダメだ、と。味が全く違うから、と。ちなみにコーヒーではなくてカフェオレを毎日昼休みに買いに行くんです、午後からの仕事の励みになりますよ、美味しいカフェオレがそこにあると、紙コップは味気ないのでマイボトルじさんです、アイスもおすすめです、氷が解けてもおいしいので。。。と、これまでほとんど話したことがなかったのがウソのように親しくことばを重ねていく。

熱く語る彼女は、私のように惰性でコーヒーを選ぶ人ではなく、きちんと選ぶ人だったようで。正直、何処のコンビニのコーヒーも普通においしい、、と評価するわたしでは、まったく敵わないコーヒー(カフェオレ?)熱の高さにので面食らったのだけれども。

その勢いに若干押されながら、母も、セブンイレブンだった、、と思った。

他のコンビニを一通り試してから、セブンイレブンのカフェオレ、と指定されていたことも、思い出した。なんでほかのコンビニではダメなんだろう、、と思いつつ、そういえば理由を聞いたことがなかったことも。

もしかしたら、母も。彼女のように語りたかったのかも、いや、わたしは。母が語るのを聴いてみたかった、かも。自分のことを話すばかりの私をカフェオレを両手で包んで、うんうんうなずきながら緩く微笑む母を思い出す。母の前で、わたしはいつまでたってもお子さまで、自分のことでいっぱいいっぱいで。

もうわたしを子どもにしてくれる人は、いない。

セブンイレブンのカフェオレを、熱く語る彼女にうなずきながら、泣きそうな気もちになったのは、たぶん気のせいだけれども。